ワガウエノホシハミエヌ。
誰にもこれから先の運命などは分かりはしないという事。
「星」は運命の意。
かむなぎ
013/我が上の星は見えぬ
嫌悪を覚えた節子は、身を捩って逃げた。
だが、すぐに捕らえられてしまった。
身体を地に叩きつけ、馬乗りになられる。
世の者とは思えぬ恐ろしい顔が近付いてくる。
「嫌だ」
節子は震える声で言った。
大声で叫び出したくとも、恐れが先行してそれも出来ない。
すぐ傍では、伊織が引っ切り無しに喘いでいる。
尻肉をぶるぶる震わせ、突っ込まれた男根達を食わんばかりだ。
時折、面白いくらいに総身を跳ねさせるのは、絶え間ないオーガズムのせいだろうか。
腰を引き、快感をじっと体内に溜め込もうとしている。
そうかと思えば、その枠に収まりきれなくなった悦にすぐに全てを奪われ、腰を突き出している。
その繰り返しだ。
伊織だけではなく、他の女もそうだった。
もう喘ぐ元気もない者は、ただだらしなく股を開き、与えられる官能に酔っている。
涙を零し、鼻水も垂らし、涎を溢れさせている。
尿を漏らす者も少なくない。
狂宴は、到る所で開かれていた。
尻ばかりを責められている者、一度に何本もの男根を膣内に入れられている者、胸から母乳を出している者。
女達は、数多ある化け物の肉塊を一身に受け、ただひたすらに悦楽に溺れている。
節子もそうなるのだろうか。
考えたくなどなかったが、落ちて行く自身を想像して吐き気がした。
目の前には、どう足掻いても受け付けない不気味な化け物。
かさついた皮膚で、節子の身体を撫でている。
時折、長い爪が皮膚に突き刺さった。
乾燥した手とは裏腹に、化け物の下肢からは、磯巾着のような性器が生えてきた。
先端はぬるぬるとてかっており、中には白い汁を飛び散らせているものもあった。
その一つ一つは正しく男の男根そのものの形をしていた。
それらはミミズのように不安定に蠢き、長いもの、短いものもある。
伸縮も自在なようだ。
伸びた触手状の性器は、今まで節子を縛っていた縄をあっという間に解いてしまった。
そして、自らが縄の代わりとなって四肢を捕え、益々身動きを取れなくさせた。
残った触手達は、節子の胸を行き来し始めた。
胸の頂をつんつんと突かれれば、節子の腰も震える。
不快だと分かっていても、身体が反応してしまう。
節子は今度こそ泣いた。
涙が次から次へと溢れて来た。
暴力的な恐怖が全身を覆った。
それなのに、逃げる道は何処にもない。
護衛の茶蛙も、傍に居ない。
ぎゅっと目を瞑った。
来る恐ろしい事から少しでも目を逸らしたかった。
すると、節子の胸を行き来していた物が、急にぴたりと止まった。
四肢を拘束していた蠢く触手も、凍ったように動かなくなってしまった。
恐る恐る目を開ければ、化け物の背後にまた違った人物が居た。
蛇神でもない、蛙でも、黒狐でもない。
涙目の中でぼんやり映ったのは、この空間の中でも異彩を放つ、冷たい顔をした男だった。
その手には長い日本刀を持ち、刃先を化け物の首元に当てている。
男は、顔に見合わぬしゃがれた声で言った。
「その娘は、神の巫だろう」
その科白に、化け物がおずおずと触手を引き始めた。
お陰で、縛られた節子の身体は解放される事となった。
どうやら助けられたようだ。
節子の恩人とも言えるその男は、ほぼ半裸状態の化け物達とは違い、また変わった格好をしていた。
中世の武士のような姿だ。
侍烏帽子を被り、大紋の直垂(ひたたれ)という着物を着ている。
腰に刀を差していたので、それを抜いたのだろう。
「すぐに余の所へ連れて来いと言った筈だ。
この虚け者が」
男が声を荒げると、化け物は飛ぶように逃げていった。
女達を囲っていた周りの化け物達も、ぴたりと動きを止めてしまった。
此処の化け物達は、この男に頭が上がらないようである。
皆の長なのだろうか。
「まずは、よく来たと言うべきか」
刀を戻した男は、節子を見下ろしながら言った。
蛇神ほどではないが、なかなかに涼やかな目鼻立ちをした男だ。
黒の髪が所々烏帽子から垂れている様は、妖艶でもある。
「余が誰か分かるか?」
「分かりません」
「そうだろうな。
人間如きに余の正体が分かる筈もない」
ふんと鼻で笑い、男は節子の身体を舐めるように見てきた。
気持ち悪さを感じながらも、身体を起こした節子はおずおずと口を開く。
「貴方は、誰なんですか」
節子の問いに、男はついと眉を持ち上げた。
そうかと思えば、鞘に収めたままの刀を思い切り振り上げてきた。
「無礼な娘め!」
男の声と節子が頬をぶたれた音がしたのは、ほぼ同時だった。
長い得物が、節子を強かに叩いたのだ。
余りに強くぶたれたので、節子はまた床に叩きつけられる事となった。
頬がじんじんと痛い。
触れば、酷く熱を持っていた。
手加減なしに打たれたらしい。
「貴様は余の問うた事だけに答えればいい。
それ以外は口を開くな、煩わしい」
汚れた物でも見るように男は言う。
節子は何が何やら分からぬまま、暴力漢を見上げた。
男が、また憎々しげに口を開く。
「人間とは、かくも弱いものよ」
節子には、男の言わんとしている事が理解出来なかった。
だが、男が癇を持っているらしい事だけは分かった。
もう激高が治まった男は、ぐるりと辺りを見渡している。
その視線の先には、壊れてしまった女達が居た。
動かなくなった化け物達の性器に必死にむしゃぶりついている。
早く先程のように犯してくれと懇願している者も居た。
もう完全に快楽の虜になってしまっているらしい。
「貴様も哀れだとは思わんか」
「それは」
「だらしなく足を開き、口も開け、男を受け入れる。
目の前の欲望にからめ取られて、後の事を考えない」
男の言う通り確かに女達は皆堕落していて、節子は返答に困ってしまった。
女達とて、最初こそきちんと理性はあったのだろうが、今ではもう完全に快楽の囚人だ。
哀れではない、と言えば嘘になる。
誰が見ても、この狂人ぶりは下賤だろう。
「さりとて、この娘達だけではないな」
男が振り返った。
また節子の身体を品定めするように眺める。
「全て人間とは、紛う事なき哀れな生き物よ」
何と返すべきか分からなくなって、節子はじっと相手の顔を見た。
その視線に、男は嘲り笑う。
「余の言いたい事が分からぬと見えるな、娘」
男は袂から扇子を出した。
蛇神のように美しい扇ではなく、灰色に染められただけの簡素なものだった。
まるでこの男の人となりを表しているような濃淡だ。
踵を返し、男は言った。
「来るがいい」
それだけ言い残して、男は奥へと歩き始めた。
節子は、呆然とその背を眺める事しか出来なかった。
言われた事が理解出来なかった訳ではないが、素直に付いて行く気にもなれなかった。
すると、傍に居た一匹の化け物が、無理矢理節子を抱き起こした。
そして、さっさと付いて行けと手振りする。
恐ろしかったが、男に付いて行くしか道は無いようだった。
節子は、仄暗い空間の中、男の後を追った。
先にあった物は、帳と呼ばれる布に仕切られた御帳台(みちょうだい)だった。
その中に腰を落ち着けた男は、節子にも中に入るよう命じた。
恐る恐る足を踏み入れれば、帳を伏せられ、男と二人だけの空間になってしまった。
ぼんやりと灯っている灯台が、やけに厭らく二人を照らす。
男はにやりと笑った。
「貴様を甚振りながら、余の話をするのも悪くない」
言うや否や、男は節子の腕を取り、己の方へと引き寄せた。
男の腕の中に抱えられてしまった節子は、すぐに抵抗した。
だが、相手の力は強い。
節子の抗う様など、毛ほども思っていないようである。
男が節子の胸に触れた。
先程の化け物とは違い、滑々した肌だった。
胸の頂を摘まれ、強く押し潰される。
節子は背を震わせた。
その反応を楽しむように、男は節子の耳元で笑う。
空いたもう片方の手は、下肢へと伸びてきた。
化け物に衣類を破かれたものの、辛うじて残っていた下肢の下着の中に、躊躇無く男の指が入る。
そして、女の敏感な場所をすぐに捕らえた。
ちょんと突き出た肉の芯を引っ掛かれる。
そして、指の腹で何度も擦られる。
「あっ」
節子は声を上げてしまった。
脳髄にまで走る電気の信号に堪えられなかったのだ。
「なかなかに厭らしい身体をしているな。
年頃にもなって、下生えが生えていないとは」
下肢の毛は蛇神が取り去ってしまった。
それを知らない男は、元より節子に毛がないと思ったのか、甚く上機嫌だ。
「これは」
蛇神に為された訳を説明しようと口を開いたが、止まる事のない男の手管に、それも遮られてしまった。
指二つで肉の芯を挟みこまれ、執拗に愛撫される。
引っ切り無しに訪れる快楽の電気に、背が何度も跳ねてしまう。
「まあよい。
この方が楽しめるだろう」
男は、抱えていた節子を一度解放し、今度は上から覆いかぶさって来た。
そして、節子の両脚を掴み、高く持ち上げる。
「さて、神の寵愛する娘の具合はいかなるものか。
さぞ可愛がられている事だろうからな」
男がゆっくりと瞬きをすれば、節子に残っていた衣服は砂のように落ちてしまった。
さらさらと肌の上を滑っていく僅かな衣類。
全て消えてしまえば、仰向けにされたまま両足を高く持ち上げられ、下肢を剥き出しにした己が残る。
男は節子の露になった性器を見詰め、目を細めた。
「やめて、下さい」
身体中が恐怖で強張った。
声が掠れてしまった。
蛇神の時は抵抗する元気があったというのに、今はそれすらもない。
ただ、来る恥辱に恐怖するしかない。
「余の話が聞きたくないのか?」
股座を拡げられたまま、節子は小さく首を横に振った。
涙が止め処なく溢れた。
指先ががたがたと震えている。
全身が氷のように凍り付いている。
それなのに、見詰められている下肢だけが熱い。
節子の足を抱えている男の手から、何か細い管のようなものが伸びてきた。
よく見れば、それは先程、化け物達に生えていた触手と同じものだった。
化け物達は下半身からのみ出していたが、この男は何処からでも出せるのだろうか。
触手の本数は、どんどん増えていく。
太さこそないが、数え切れない程に伸びたミミズ状の触手は、うねうねと蠕動しながら節子に集まった。
そして、ぴたぴたと張り付き始めた。
最初は太股から、次に股座付近、その次に最近まで毛が生えていた部分に。
それらは各々意思を持つ吸盤のようでもある。
節子の股付近にびっしりと張り付いた細い触手達は、節子の陰がよく見えるよう左右に伸びた。
すると、吸盤に引っ張られるように、節子の股座は更に大きく開かれる事となった。
ぱっくりと音を立て、節子の陰唇が口を開く。
そこに集中する男の視線が痛い。
小さな針のように刺してくる。
性器を通して、身体のずっと奥まで覗かれている気分にさえなってしまう。
蛇神の時ですら、こんなにも恐怖一色の羞恥は強制されなかったように思う。
男の視線が、ねっとりと絡みついて来る。
まるで膣口付近を舐められているようだ。
そう錯覚すれば、益々下肢に熱が集まる。
何か熱いものが、どろりと込み上げてきそうになる。
「人間は、何故にかくも己の事ばかりしか考えないのか。
その立場が誰かを犠牲にして成り立っていると、何故気が付かないのか」
言いながら、男は節子の陰にふっと息を放った。
微かに触れた吐息にすら反応した節子は、嫌々と首を振る。
男の話している内容など、頭に入らない。
「貴様は、その答えを知っているか?」
男は節子の陰に顔を近付け、更に続ける。
そのせいで、彼の吐息が何度も敏感な場所を擽っていく。
節子の腰が跳ねる。
大した快感は与えられていないのに、身体は何度も応じてしまう。
男が問い掛けた内容に答える事など、出来る筈がない。
男は、ふんと鼻を鳴らした。
「神の寵愛を受けていても、そんなものか。
残念な事よ」
その言いぶりは、興醒めだと言わんばかりだった。
節子の中では、羞恥心やら恐怖やらが綯い交ぜになって総身を襲った。
それなのに、抗う術もない。
ただ恥ずかしげもなく股を開き、陰を露にしているだけだ。
「それでは、愚かな貴様も余の魔羅を味わってみるか」
男が口をゆっくりと持ち上げた。
すると、それを合図に、今まで張り付いていただけの触手が動き始めた。
触手達は、節子の肉の芯に何本も伸びて行った。
そして、強く吸い、突き回し、時に擦り上げ、執拗に動いていく。
突然襲い掛かった強過ぎる快楽に、節子はあられもない声を上げた。
腰を暴れ馬のように何度も跳ねさせる。
だが、触手の動きは止まらない。
それどころか、更にしつこくなる。
膣口自体には触れてこないものの、その女の敏感な肉の芯への攻めは、節子にとって拷問にも近かった。
目の端にばちばちと花火が散った。
手足の先が痺れる。
背筋にむず痒いような強い信号が走る。
脳髄が悲鳴を上げる。
「最高の快楽まで落としてやろう」
男が言えば、その言葉通り、節子には経験した事のない強い衝撃の山が走った。
膣口がきゅっと締まったかと思うと、臍から中心に血の波が全身にうねり始めた。
手足の爪先が痛いほどに引き攣っている。
身体の奥底が、びくんびくんと痙攣している。
節子は、これが初めて経験するオーガズムだと知らないまま、また次なる快楽に溺れていった。
触手の動きは止まらなかったのである。
「極楽や天国といったものが上の方にあると思うな。
本当の快楽は、そこを突き破った果ての無い下の方にある」
男が言った。
その言葉は、節子の耳を上滑りしていった。
TO BE CONTINUED.
2009.02.06
引用:故事ことわざ辞典・学研
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