オクビョウカゼニフカレル。

怖気づいたり、怯えたりする事。

かむ
012/臆病風に吹かれる

身体が拘束されている。
真っ暗で何も見えない。
口に何かを詰められ、喋る事さえ出来ない。
遠い所では、物音がしている。

節子は抗う事も出来ず、訳も分からぬままじっとしていた。
ごとごとと身体が揺れる。
何処かへ運ばれているようだ。

茶蛙はどうしたのだろう。
やはり、傍には居てくれなかったのだろうか。

暗闇の時間は続いた。
時折ぴたりと止まったり、騒がしくなったりもした。

暫くして、やっと揺れが治まった。
そうかと思えば、勢いよく床に叩き付けられてしまった。

手を後ろで縛られ、足も括られている為、受身を取る事は出来なかった。
顔も強かに打ちつけた。
そのお陰で、口に詰められていたものはぼろりと取れた。

節子は、やっとの思いで顔を上げた。

「新入りだ」
「新入り」
「新入り」

聞き慣れない不気味な声がした。
同時に、見た事もない光景が眼前に拡がった。

節子が投げ出されたのは、何処かの洞窟内のようだった。
近くでぴちょんぴちょんと水の音がする。
床はしっとりと濡れ、且つ岩のようにごつごつしている。
明かりもほとんど無い。

しかし、それ以上に衝撃だったのは、目に映った沢山の化け物達だった。
薄茶色の皮膚、落ち窪んだ瞳、長い髪、不自然に長い四肢。
閉鎖された薄暗い空間の中、それらが亡霊のように蠢いている。

節子は、その化け物達が為している事に目を見開いた。
彼らの下肢には、磯巾着のような触手が生えている。
その数多あるうねる棒が、意思があるように各々動いている。
まるで性器のようだ。
先端からは白い飛沫を飛ばし、ぬらぬらてかっている。

化け物達は、個々で数人の若い女を抱えていた。
そして、己から伸びる性器を女子達の股座に突き刺し、四肢の動きを封じ、ただひたすらに腰を振っていた。
その度に女達はびくびくと背をしならせている。
涎を垂らしている者も居た。
あられもない声が鳴り響いている。
目の焦点も、遥か先を向いている。

信じられない光景に、節子は瞬きすら忘れた。
身体は硬直して、ぴくりとも動かない。

一匹の化け物が、女の股から勢いよく性器を抜き出した。
すると、その性器が栓になっていたのか、彼女の体内からはどろりと汁が溢れて来た。
その感覚さえも何らかの快に繋がるらしい。
女は、猫の泣き声のように鳴いていた。

異質だ。

節子は硬直ばった身体のまま、たじろいだ。
心の中では何度も悲鳴を上げたが、本物の声は一切出て来ない。

生臭い香りがした。
化け物達の精の臭いか、或いは女達のものなのかは分からない。
湿気た空間の中で、篭った臭いだけが渦巻いている。

節子のすぐ後ろに居た化け物が、ゆらりと動いた。
どうやら此処まで節子を運んできた者のようだ。

その化け物は、呆然としている節子の衣類に手を掛けてきた。
抵抗する間もなく、勢いよく引き裂かれる衣服。
化け物達の力は、人間のものとは到底思えない程強いらしい。

「嫌っ」

節子はやっと声を出す事が出来た。
だが、四肢を縛られた状態なので、身動きは取れない。
声を出したところで、何の意味もない。

その時、節子の横にごろりと転がって来るものがあった。
目を遣れば、随分と見覚えのある女だと分かった。

金色の髪、日焼けした肌、崩れた化粧。
最近居なくなったといわれていた、相澤伊織だ。

「伊織、さん」

節子は名を呼んだが、当の伊織は理性を失っていた。
節子の呼びかけには、何の反応も示さない。
ただ、突っ込まれている性器に喘いでいるだけだ。

全身に汚らしい男の精を掛けられている。
それすらも惜しいのか、開いた手でそれらの白濁した汁を掬い取り、己の口に運んでいる。
そして、蜂蜜を舐めるように嚥下する。
四つん這いになって嬌声を上げる様など、下等な畜生のようだ。

彼女は何本も性器を飲み込まされていた。
うねる触手状性器が、彼女の膣を、その後ろにある排泄用の後口を犯している。
その穴からは、やはり飲み込みきれない白い汁ばかりが溢れている。

「お前もいずれ、ああなる」

節子の衣服を破り捨てた化け物が言った。
伊織の事を指しているようだ。

振り返れば、その化け物は下賤な笑みを浮かべていた。
よく見れば、女のような顔をしている。
他の者のように、触手状性器も生えていない。

だが、声はしゃがれた男のものだった。
胸だって平べったい。
何より、枯れ木のように痩せこけ、落ち窪んだ皮膚は気味が悪い。

「蛇神のお手付きだとよ」
「神か」
「神のお手付きか」

また周りが喋り始めた。
節子に興味を示しているようだ。
各々女を鳴かせながらも、じっと節子を見てくる。

節子は泣きそうになった。
実際、とうに涙が出ていたかもしれない。
ただ、得体の知れない恐怖に総身が震えた。

助かる活路は見出せない。
己は此処で殺されてしまうのだろうか。
或いは、伊織のように廃人となるまで虐げられるのだろうか。

蛇神が言っていた、「お手付き」の意味が何となく分かった。
やはり、神が贔屓にしている女は、怪なる者にも狙われやすいのだろう。
伊織含むその他の女が神に目を付けられていたとは思えないが、化け物達は節子だけを特別好奇じみた目で見る。
その瞳の奥に、紛れも無い下劣な欲が覗いている。

素直に茶蛙を傍に置いておけばよかった。
節子の脳裏に後悔ばかりが過ぎる。

「神のお手付きならば、さぞ美味かろう」
「美味かろう」

化け物達がひゃらひゃらと笑っていた。
伊織然り、若い女達は頻りに艶めいた声を上げている。
中には、快感を通り越して悲鳴にも似た声を出している者も居た。

それでも、化け物達の攻めは収まらない。
むしろ、その反応を楽しんでいるようにも見える。

四方八方で、化け物達が精を飛ばしている。
時には女の膣内で、時には身体の外で、時には口腔の中で。
素直にその粘ついた汁を嚥下している女達は、疾うに狂っていた。
目の前にぶらさげられた性器を舐め、全身で官能を享受する事しか見えなくなっている。

自ら腰を振る者だって少なくない。
オーガズムを迎えた者は、咆哮のように吠えている。

節子の背後の化け物が、節子の胸に手を伸ばしてきた。
見た目通り、がさがさした皮膚だった。

それが胸の頂きに触れた時、節子には何とも言えない感覚が走った。
蛇神の時とは違う。
快には程遠い、吐き気がするような感触だった。





TO BE CONTINUED.

2009.01.30
引用:故事ことわざ辞典・学研


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