別に偽善者だって訳じゃないし、本物の聖人君子でも、ただのお節介でもない。
けれど、このままでは我慢なら無いと思うのは、僕の愛故かな。
ま、それもこれも、君達の好きなように受け取って貰って構わないけどね。
Just Marriage
023/宣戦布告
エスクがこの城に現れてから、早数日。
先月の決算書、見積書、城下の者共から寄せられたクレーム、情勢報告書。
俺は、己の執務室で山積みにされた書類を一枚一枚片付けていた。
中でも多々目立ったのは、次期後継者のお披露目を早くしろ等という要請の書。
それは、城下へ後継者の存在の有無の報せを入れた時から、ここ最近に至るまでずっと増え続けている傾向にある。
俺は、書類整理以外に、外回りをする事も多い。
だが、外に出る事もなく、専ら自室に引き篭もっているだけのラークの元には、俺以上に書が行っている事だろう。
その後継者である人間の小娘はといえば、近頃やけに剣術に力を入れているらしかった。
以前とは比べ物にならない程に…、というより、ただ只管に黙々と鍛錬をこなしている。
今日など、余りに気負い過ぎたせいか、最後には足腰すら立たなくなっていた。
仕方がないので、そのまま担いで部屋まで送ってやりはしたものの、あれでは明日疲労が完全に抜けているかどうかも怪しいものだ。
けれど、そのお陰とも言うべきか、確かに剣の腕は上がってきている。
集中しているせいか、いつも叩いていた減らず口や無駄話もなくなった。
聞く所によると、ラークやリッター、薄羽姫様達とは相変わらず懇ろにしているらしいのだが、何故だか俺に話し掛けてくる事だけは一切無くなった。
急激に変わった態度に、おかしいと思わなかった訳ではない。
何より、あれ程までに鬱陶しいと思っていた女が突然黙りこくると、逆に不気味で仕様が無い。
「ちっ」
誰に聞かせるでもなく、舌打ちしてしまう。
得体の知れない憤りを感じる。
俺は、それを掻き消す為、次の仕事に手を掛けようと、執務用デスクの上に山積みにしている紙の中から、新しい一枚を手に取った。
そこに書かれていたのは、よく見慣れた整った文字。
リッターによる、城下の報告書だ。
分かり易く纏められた文書の全文を軽く流し読み、問題が無いと判断した俺は、インクに浸したままだったクウィルペンを手に取り、サインを書く。
しかし、余りに長時間漬け過ぎたせいか、そのペンからはぼたりと大きな黒い汁が落ちた。
紙の上に広がる、真っ黒な染み。
そのせいで、流麗な文字は所々見えなくなってしまった。
これでは、この書は役に立たない。
俺は、二度目の舌打ちをし、くしゃりと前髪を掻き揚げた。
そして、執務中は大概掛けている眼鏡も外し、座っていた革張りの椅子へ深く背を凭れさせた。
今日は、やけに仕事が捗らない。
先程から、単純なミスばかりをしてしまっている。
この城に仕えて、早数百年。
一応それなりに年数を遂げた俺とした事が、この失態続きは何だろう。
悶々とする心中。
俺は真っ白な天井を仰ぎ見、一度大きな溜息を吐いた。
その時。
「お邪魔するよ」
がたりと音がしたかと思うと、振り向く前にテラスへ続く窓が豪快に開け放たれた。
何事かと構える間もなく、その窓から現れたのは、俺が頭を悩ませる種の一人である男にして元上等騎士、エスクだ。
「邪魔をするなら帰れ」
その男を見るや否や、俺は往来拒否の言葉を吐いた。
何故こいつが俺の部屋に来るのだと、些か驚きもしたが、それは顔に出さないようにする。
だが、俺の言葉も無視し、エスクは此処まで飛んで来る為に広げていた羽を消した。
そして、肌蹴させていた派手な着物の佇まいを直す。
妖魔は、動植物の化身が正体だ。
それ故、蝙蝠化身のエスクのように自由に空を飛ぶ事が出来る者も、妖魔の中には幾つか居る。
ご多分に漏れず、俺も烏が元なので、空を飛ぶ事は容易い。
が、用いた事はほとんど無い。
少なくとも、この城に仕えるようになってからは、数える程しか無いように記憶している。
例えば、エスクのように普段から自由に着脱が容易な格好をしていたのならば、問題無いのだ。
しかし、俺は肌を晒す事に気が引ける性分故、大概の時は上着を脱がない。
上着を脱がなければ、肌に直接生える羽を伸ばす事も出来ない。
だから、俺は余り空を飛ばない。
勿論「空を飛ぶ事にそこまで必要性を感じていない」という理由も、あるにはある。
「相変わらず素っ気無いね、君も。
そんなに難しい顔ばっかしていたら、仏頂面が癖になっちゃうよ」
「余計な世話だ」
「はは。
まあ、すでに癖になってるっぽいから、言うだけ無駄だったかもしれないけどね」
来て早々、軽口を叩くエスク。
俺とエスクは、大して仲がいい訳ではない。
むしろ、俺からすれば大いに嫌いなタイプの輩でもある。
執務を真面目に取り組む事はなく、常に自分の好きな事だけを考える、自由奔放で、他者に迷惑を掛けるだけの男。
それがエスクだ。
過去、エスクがまだこの城に仕えていた頃、俺は奴のせいで多大な尻拭いをさせられた。
けだし、それは俺だけではなく、ラーク含め、他の騎士も同じ筈だ。
そんな無分別で野放図なエスクが俺の元へ来るなど、普通では考えられない事だった。
俺の部屋には、奴が興味を引く風変わりな物は然して置いていない。
それに、近頃エスクが甚く気に入っているのは、多分にあの人間の娘なのだ。
俺の執務室に人間が入り浸っているのならまだしも、あれは過去に一度しか此処に来た事はないし、何より最近では必要最低限俺に関わろうとしていない。
そんな余所余所しい娘が此処に居る筈もないので、もしエスクが人間に会う為に来たというのならば、それは甚だしい見込み違いだ。
だが、それを分かった上で来たというならば、それなりの理由があるに違いはないのだろうが、俺にはその予想も付かない。
「何の用で来た?
此処には、貴様の目的である人間の娘は居ない」
「うん、知ってるよ。
今日は、君に会いに来たんだもん。
別にあの子が居なくても、全然問題無い」
「俺に?」
「そうそう、宣戦布告ってやつをね」
己の見当を他所に、そう言いのけたエスク。
俺は、突然言い渡された戦闘の申し込みに、デスクのすぐ傍に立てかけておいた剣を手にした。
此処で暴れるのは出来る限り避けたい所だが、エスクが相手では手加減云々とは言ってはいられないだろう。
事実、エスクは先代の王に唯一匹敵出来る程の妖術を持っている者として、至極有名だったのだ。
しかし、当の俺は妖術が使えない。
過去、火の属性を持ち、一上級妖魔として妖術を扱えていた時もあったが、訳あってそれも随分前に封印した。
それ故、今の俺には、ただ剣一本でしか敵に手向かう術は無い。
莫大な妖術の力を秘めた男に俺が本気で立ち向かった所でどうなるかも不明だが、それでも俺は剣のみで抵抗するしかないのだ。
剣を携えた俺に、エスクが笑った。
「ああ、違う違う。
何で君はこうも血気盛んなんだろうね」
「貴様、俺に闘いを挑もうと思って来たのだろう?」
「まあ、間違ってもなければ、当たってもない。
でも、僕は君と剣を交わしたくて来た訳じゃない。
ただ…、そうだね、宣戦布告と表現したのが悪かったのかもしれない。
言い換えよう。
僕は、君に宣言をしに来た。
オーケー?」
俺の早とちりだったのか、エスクは構える事も無く、来客用ソファとテーブルを並べている場所へと歩いていった。
そして、ソファの背凭れに腰を預け、「まあ、落ち着いてよ」と飄々と言う。
「宣言、だと?」
「そう。
一応フェアになるよう言っておかないと、と思って」
「何だ、それは」
「うん。
実は僕、サッキーの事、かなーり好きなんだよね。
それも、一人の女として、全く本気で」
ぱんと風を切る小気味いい音をさせながら、エスクは懐から出した黒扇子を広げた。
俺は、その輩から出て来た「サッキー」という馴れ馴れしい呼び方に、ぴくりと眉を寄せた。
先程までその人間の事を考えていた分、その者の名前が容易に出て来た事が余計に不愉快でもあった。
そういえば、リッターもあの娘の事を「サキ様」だの何だのと愛称で形容していた。
思い返せば、初めてそれを聞いた時も、正直いい気はしなかった。
とはいえ、別にその人間が誰に何と呼ばれようが、知った事では無い。
知った事ではないのだが…、だが、何処と無く嫌悪感を覚えた。
まあ、リッターと人間の娘は見た目の年恰好も近いようではあったし、それ故の事ならば仕様が無い事なのかもしれないが、それでも余りいい印象は受けなかった。
何故ならば、過度に人間の小娘と馴れ合うような事があれば、情が移るかもしれないからだ。
リッターは、将来が有望な騎士の一人だ。
中でも、俺は随分と手を掛けている。
そんな大事な要となる要素を持った者が、人間の女などに現を抜かしていてはいけないのだ。
それなのに、人間の小娘の方も、リッターの事を悪く思ってはいないようだった。
エスクが久方ぶりにこの城に来た際、エスクと人間が廊下でリッターの話をしていたのを、俺は聞いている。
確か、リッターが恋愛対象に入るだの何だのと、そのような色惚けた内容だ。
その時、俺は全く馬鹿げた話だと思ったが、それでも隣に控えていたリッターは、顔を赤くして俯いていた。
まるで想い人に情を返されたようなその反応に、俺は言いようの知れない焦燥を感じた。
リッターがその女に本気にならなければいいのだが、こればかりは分からない。
何より、人間の毒牙などに掛かるような腑抜けでは、これから先も思い遣られるだろう。
しかし、その人間の小娘に中てられたのは、何もリッターだけでは無かったらしい。
今、己の目の前で綽然とした佇まいで居る、根無し草なエスク。
この男は、以前より「人間」という種類の生物を好んでいたし、何より「日本」という国の文化に非常に凝っていた。
それ故、この城の後継者として育てられているあの人間の娘を気に入っている事も、何処となく分かっていた。
それらは全て、俺もすでに既知な事だった。
分かっていた筈だった。
だが、まさか本気で恋焦がれる程になっていたとは。
ただの悪ふざけではなく、真剣な情にまで発展していたとは。
俺は、軽く鼻で笑って、エスクに目線を遣った。
「貴様が人間贔屓なのは知っていたが、また酔狂な事だな」
「そう?
どうしてそう思うのさ?」
「妖魔が人間に本気で想いを寄せるだと?
笑わせるな、馬鹿馬鹿しい」
「そうかな?」
「妖魔にとって、人間はただ捕食の存在だ。
今こそ王の後継者として此処に居るが、あの娘も例外では無い」
「随分な言い草だね」
「自分達の糧になる物を一人の女として見るなど、貴様も思っていた以上に愚か者だったか」
さも馬鹿にするように…、否、実際に馬鹿にしていたのだが、俺は再度椅子に深く凭れながら、エスクに言った。
だが、エスクは広げた扇子をぱたぱたと扇ぎながら、ぴくりとも顔色を変えずに口を開く。
「愚か者は君の方だよ、シン」
「何だと?」
「種族なんて関係ないだろう?
まあ、確かに妖魔の十中八苦は、君と同じように人間を蔑んでいる連中が多いけどね。
けれど、人間には人間の良さが、そして、皆それぞれ面白い個性を持っているものだよ。
そこをきちんと見てもいないくせに、世に知れ渡っている常識だけで物を判断するだなんて、君も落ちたものだね。
百聞は一見に如かず。
あの子と一ヶ月も一緒に居て、君は一体何を見てきたのさ」
ソファの背凭れから腰を上げ、エスクは一歩俺に近付いて来た。
奴が履いている黒の革靴が、ごつりと鈍い音をたて、床を鳴らす。
俺は、その動向を窺う為に、きゅっと目を細めて睨み返した。
「あれの、何処に良さがある?
大して見栄えのする容姿をしている訳でも無し、特別に何か特技がある訳でも無し」
「サッキーなら十分持ってるよ。
あの子はね、人間の中でも稀に見る強い心の持ち主だ」
「強い心だと?
また随分と笑わせる」
「ああ。
勿論、急に崩れたりひび割れたりする不安定な事も多々あるけれど、それでも君の厳し過ぎる鍛錬に毎日ちゃんと顔を出すだなんて、並大抵の人間には出来ないよ。
況してや、その辺の妖魔であっても無理なんじゃないの?」
ごつり、ごつりと重い音をたて、俺の執務用デスクのすぐ前まで来たエスクは、ぱちんと扇子を閉じた。
そして、その扇の先で、こつこつとデスクの端を叩く。
「僕、この前、君の鍛錬の遣り方を少し見させて貰ったんだけど、よくサッキーはあれだけの事をこなしているものだと感心したくらいだよ。
シン。
君は人間の、まだ小さな女の子にあれだけの事を課しておいて、気が付かなかったの?
それに、サッキーはこのお城に無理矢理連れて来られた身なんだよ?
心細い上に、よく色々と耐えているとか思わないの?
妖魔だらけの中に、ただ自分一人だけが人間という境遇で、よく努力しているとは思わないの?」
淡々と喋っているようでいて、エスクは少しずつ、それこそ気を付けていないと分からない程度に語尾を強めていた。
俺は、その科白に、ぐっと言葉を飲み込んだ。
悔しい事に、反論する事が出来ない。
だからといって、頷く事も出来ない。
確かに俺の鍛錬の仕方は、随分と荒かったように思う。
自分の都合に合わせ、少々ハードだと思った事も無理にこなさせていた傾向にある。
むしろ、そうしていた。
敢えて困難な妖怪の相手ばかりをさせていた。
それもこれも、この遣り方に付いていけないと少しでも泣いた瞬間、さっさと見限ってやろうかと思っていたからだ。
だが、皮肉な事に、小娘は文句こそ零せど、泣き言は決して言わなかった。
俺の事を「鬼」だの「悪魔」だの罵る事はしても、そこで投げ出す真似だけは絶対にしなかった。
それでも俺は、数日ですぐに根を上げるだろうと思っていた。
ラークにでも泣き付き、もう嫌だと懇願すると思っていた。
しかし、なかなかに根性の座った性分をしているらしいその人間は、幾ら日が経とうとも、文句を言いながら立ち向かう姿勢を忘れなかった。
そのお陰か、本人は気が付いていないようだが、小さな妖怪は難なく倒せる程度になってしまった。
まだ「初心者」といった太刀筋が見え隠れするが、元より運動神経もそこそこ良かったらしく、大概の事はやってのけてきた。
否、出来ない事の方が遥かに多かったが、その全てを、幾ら時間が掛かってでも取り組もうと努力していた。
諦めるという言葉を知らないのか、計り知れぬ意地があるのか、常に前を向いて剣を振るう姿勢。
それは、常に傍で監修していた分、俺が一番よく分かっている筈の事だった。
「サッキーは、人間の割によく頑張ってる。
なかなかガッツのある子だ。
それくらい、認めてあげてもいいんじゃない?」
目の前の男の言う事に多々思い当たる節があった俺は、目を逸らしてまた小さく舌打ちした。
奴の言う通り、あの娘はよくやっている。
色んな人間と関わった事がある訳ではないので、他の人間達と比べる事は出来なくとも、その程度くらいは俺にも分かった。
妖魔ですら、あれ程までに直向な者は稀だ。
否、そもそも妖魔は最初から実力を持っている者がほとんどなので、何かに只管努力するという習慣は余り無い。
だからこそ、あの娘の尋常ではない気勢に、妖魔である俺も一目置かなければならないのだ。
俺は、返す言葉に困って、話題を変えた。
「その事と、貴様の宣言と、一体何の関係がある?
態々俺の所に来てまで言う事でもなかろう」
はぐらかしている自覚は十分にあったが、どうしてもエスクを肯定したくなかったので、そう言うしかなかった。
その俺の投げ遣りな質問に、エスクは眉尻を上げ、意外そうに声を上げる。
「あれ、分からない?」
「分かる訳無かろう」
「サッキーは、君の事が好きなんだよ。
残念ながら、ぴくりとも笑わず、優しくもしてくれない、鬼のような君にね」
そう告げられて、本当に意外だと驚いたのは、紛れも無く俺の方だった。
思ってもみなかった告白で、瞬時に頭が真っ白になった。
エスクは、自分が問題発言をしたくせに、恣意的に俺を見ていた。
「まあ要するに、サッキーにはもう少し優しく接してあげて欲しい訳だよ、僕としては」
「な、にを」
「好きな子の悲しむ顔を見るのは、生憎、趣味じゃなくてね。
たとえ、それによって僕の想いが蔑ろにされても、沈んだ顔ばかりを眺めるより断然いい」
ただ、淡々と述べられる。
この目の前の男は、一体何を言っているのだろうか?
なけなしの理性で考えても、答えは出ない。
「別に、君にも彼女を好きになれ、とまでは言わないけどね。
でも、恋する乙女の対応くらい、考え直して欲しいものだよ。
ねえ。
エリート上等騎士の、シンヅァン君?」
驚愕の余り、喋る事さえ忘れて呆然としている俺に、エスクは仕舞っていた羽を広げ、ばさりと宙に浮いた。
そのせいで、デスクの上に置いておいた書類がばらばらと辺りに散らばり、インクを付けたままのクウィルペンも、ころころと転がった。
「勿論、君もサッキーの事を好きになっても構わないけどね。
僕の気持ちは、君達が恋仲になっても何ら変わる事もないし」
「ば、馬鹿げた事を。
俺は…」
思わぬ事態にすっかり狼狽させられてしまった俺は、ぐっと眉間に皺を寄せながら抗言した。
エスクの言った事の内容を理解しようと、今一度脳内に巡る物をぐるりと回転させる。
けれど、それは到底信じ難い物だった。
全く、エスクは何を馬鹿げた事を言っているのだ。
あの人間が、この俺に想いを寄せているだと?
どう勘違いしたら、そのような見方が出来るのだろうか。
俺は、あの娘がこの城に来てから、一度だって優しく接した覚えは無い。
まともに取り合った記憶も無い。
常に無い物と同じように扱い、勿論、後継者という肩書き上、他者の前では気を遣っていたが、それ以外の時は然して気にも留めなかった。
むしろ、早くこの城から居なくなってくれればいいとさえ思っていた。
そのような態度を取っていたこの俺を、あの娘が慕っているだと?
何も好かれる要素を持っていない俺を、一体、何故?
考えれば考える程、それは嘘臭さを増していき、絶対に有り得ないものになっていく。
「ちなみに、サッキーのお肌はスベスベで気持ち良かったよ。
君も一度、味わってみるといい」
呆然とした俺に向かって最後にそう言い、突然やって来た風来坊は、再度窓から出て行った。
羽を羽ばたかせたせいか、或いは奴の妖術かは分からなかったが、また紙の山がばらばらと崩れた。
そんな中、俺はというと、掴み所のない動揺に強く眉を顰めたままだった。
TO BE CONTINUED.
2007.07.16
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