全ての者を率いる為、一つ目の団子は長く国を統べていました。
その一つ目の団子を救う為、二つめの団子は立ち上がりました。
そして、二つ目の団子をサポートする為、三つ目の団子は動きました。

その三つの全ての団子は、非常に良く出来た人となりばかりだと、よく皆は褒め讃えておりました。

ダーリンはきび団子
012/きび団子ブラザーズ

「ただいま帰りました」

和菓子国の城へと帰って来たきび団子の王子は、やっと人間の姿を解いて、丸い球形に戻った。
そして、ぽんぽんと跳ねてあずきの頭の上に上り、城内の者達に帰宅の旨を告げる。

あずきと二人出て行って、少し経って一人で戻って来たかと思うと、和菓子国の正式武器の黒文字を携え、きん斗雲に乗って再度出て行ったきび団子。
その可及的な外出を心配していた王の饅頭と母のいちご大福は、息子の声を聞くなり、ばたばたと慌てふためいてホールへと出て来た。
執事のかしわ餅も、仕事を中途半端においたっきり駆けて来る。

「きび王子!
お前、何処に行っていた」
「ちょっと、洋菓子国の方まで」
「洋菓子国?
お前、あそこと我が国は絶縁状態にあるのだぞ。
何を考えているんだ」

息子の無事を確認してホッとした王は、怒っていいやら喜んでいいやらで、何とも複雑な感情を混同して息子を叱った。
しかし、きび団子は父である王の小言など耳に入っていないようで、少しも悪びれた風は無い。

「父上」

あずきの頭から下りたきび団子は、王の前へと侍立した。
あずきも、何やらまた話し合いが始まるのかと、その場にちょこんと腰を下ろす。

「僕は、やはりあずき以外を妻とする気はありません」
「だから、それはお前」
「勿論、この城にも未練はありません。
出て行きます」

凛として直言するきび団子に、その場に居た一同は大きな声を上げてさざめいた。
ホール内に地響きのような振動が拡がる。
あずきが腰を下ろしている床も、びりびりと震えた。

「何を馬鹿な。
出て行って、何をする気だ。
勘当してしまえば、和菓子国にお前が居る場所は無くなるだろうし、洋菓子国はライバル国だぞ」
「洋菓子国には行きませんし、和菓子国も捨てます。
僕は、人間界に行きます。
あずきと一緒であれば、住む場所は何処でも構わない」
「な、お前、血迷った事を言うな。
人間界などで暮らしていける訳が無いだろう。
ずっと人間の姿を取っていなければならないのだぞ。
そんな事」
「構いませんよ、それくらい」

大人しく座っていたあずきだが、きび団子の言った内容には驚いた。
皆とはワンテンポ遅れて仰天したが、周りもきび団子の言う事に未だ吃驚しっぱなしなようだ。

「そ、そんな事、許せる訳が無いだろう。
それに、お前が居なくなったら、城はどうする。
跡継ぎが居なくなっては、この和菓子国もいずれ滅びてしまうぞ」

おたおたと慌てふためき出した王は、いかにして目の前の息子を宥めようかと、一生懸命脳内を巡らせた。
だが、自分の息子が、見た目は優男なくせに、根の所は非常に頑固な事を、王は知っていた。
それでも納得が出来なくて、とにかく考え直させようと嗜める。
傍に控えていた母のいちご饅頭も、執事のかしわ餅も、どうしたものやらと困惑していた。

折りしも、その和菓子の群れを掻き分けるように、次男のチョコレートきび団子が現れた。
薄茶色の生地をした、凛とした団子だ。
颯爽と歩くその様は、兄のきび団子よりも威厳があるように見える。

「行けばいいじゃないか、兄さん」

そして、きび団子達の傍に来て、弟であるそのチョコレートきび団子は、すっぱりと言った。
弟の後押しに、城内はまた「えええ」とどよめく。

「チョコきび」
「行っていいと思うよ、俺は」

兄であるきび団子が弟に目を遣れば、弟のチョコレートきび団子は、またさらりと言った。
その調子が非常に潔くて男らしい。
次男であるくせに、長男のきび団子よりもぐっと年上のようだ。
或いは、若さゆえの、思い切った判断なのかもしれない。

「そんな事をしては、我が国が」
「和菓子国であれば、俺が何とかする。
俺が城を継ぐよ」

王がおたおたと抗弁すれば、それを遮ってまた次男のチョコレートきび団子が返す。
しかし、今までは長男であるきび団子がこの城を継ぐのがさも当然とされていたので、その次男の急な宣言に、皆は驚いた。
普通、家の跡取りというものは、長男が継ぐものと決まっている。
和菓子国も然りだ。
それなのに、次男は長男の家出を推し、自らこそがこの国のトップになっても良いと言うのだ。

これは、長男であるきび団子からすれば、とても有り難い話だった。
国を背負う事に負担を感じていた訳ではないが、あずきと一緒になれないのであれば、その皇位も邪魔もの以外何物でもない。
とはいえ、口では色々言えど、和菓子国を見捨てるという行為は、確かに罪悪感も感じるところがあった。
だが、その皇位継承権を次男が進んで受けるというのであれば、きび団子は手放しで喜ぶ事が出来る。
何を懸念するでもなく、和菓子国を後に出来る。

けれど、次男のチョコレートきび団子は、この国の外交を担当する、重要ポストに位置する官だった。
次男が次期王になれば、今度は外交の席が不足する。
三男であり、末っ子でもあるマスカットきび団子も一応外交を任せられているが、未だ幼い故、何処か頼り無い所がある。

況してや、最近の和菓子国は洋菓子国と敵対している。
その状況下で、外交官は、他国との折り合いも熟していかねばならない。
それを考えれば、次男に王位を、三男一人に外交を譲るのは、何処か不安が残る話でもあった。

「チョコきび、お、お前は、和菓子国の外交を担当していただろう。
そんな事をしては、今度は外交官が」
「じゃあ、ボクの出番ですかねえー」

しかし、それでも名乗り出る者が居た。
薄緑の生地をした、もう一人の外交官、三男のマスカットきび団子だ。

「マスきび」

長男のきび団子は、久方ぶりに見る三男の姿に目を細めた。
三男のマスカットきび団子は、兄に比べて年はやや幼く、人間で言えばあずきと然して変わらぬ程だ。
のんびりした口調で、よく居眠りをし、一寸目を離した隙に、何処か好きな場所へと転がって行く。
「マイペース」という単語を形にすれば、正にこれがそうなのだろうかというような和菓子だ。
人当たりも、とても良い。
優男の長男、凛とした次男とは、また少し違ったタイプだ。

「あずきさん、お初ですー。
ボクはー、マスカットきび団子と言いましてー、きび団子の兄弟の末っ子ですー。
現在、和菓子国の外交をー、チョコきび兄さんと二人で任せられていましてー」

一応礼儀として為されたマスカットきび団子の挨拶は、間延びした語調を除けば、一王族として立派なものだった。
あずきは、自己紹介を受けてぺこりと頭を下げた。
三男のマスカットきび団子も、そのあずきを見上げて、へろりと笑う。

長男のように跳ねて移動する事も、次男のように颯爽と動く事もせず、マスカットきび団子は、ただ器用にころころと転がって王の前に出た。
父である王は、放恣な三男を嗜める事はなかったが、先程言った「ボクの出番」という言葉に反応した。

「マスきび、お前まで一体何を言う気だ」
「ボクがー、チョコきび兄さんの分も何とかしますー。
和菓子国の外交はー、ボク一人で十分ですー」

余りにころころ転がったものだから、些か疲れたらしいマスカットきび団子は、中途半端に斜めになったまま返した。
だが、それもいつもの事なので、父も変わらず返事する。

「洋菓子国との隔絶問題もあるのに、お前一人に任せられる訳が無いだろう」
「あー、えっとー、言い忘れていましたがー、ボクには洋菓子国とのパイプがありましてー」

目をとろんと傾けて、マスカットきび団子は瞠目すべき事を言った。
その驚愕の事実に、一同は再びどよめき始める。
和菓子国と洋菓子国で懇意にするのはタブーとされている今、その洋菓子国との縁を持っているという事実は、皆にとって非常にセンセーションな事だったのだ。

マスカットきび団子は、もう転がるのも面倒なのか、城内の奥へと続く戸へと目を移した。
それを合図に、その扉はそっと開かれ、中からは生クリームがたっぷり乗ったエクレアが現れた。
左右均整の取れた形をし、乗ったチョコレートも艶々輝き、とても美しい。
たっぷり使われたクリームの香りが、辺りにふわりと拡がった。

「此方はー、洋菓子国のプリンセス且つアイドル、エクレア姫ですー。
シュークリーム王子の妹さんだそうでー」

現れた異国の姫に、王も、王妃も、皇太子二人も、執事も、皆、目を皿のようにして見た。
敵国に、敵国の姫。
常では考えられない光景だ。

「ど、どうして洋菓子国の姫が」
「誰にも言っていませんでしたがー、実はボクー、このエクレア姫とお付き合いさせて貰ってるんですよー」

やっと動く気になったのか、マスカットきび団子はそう言って、エクレア姫の近くまで転がっていった。
しかし、恋人の前でも尚、また転がり疲れたマスカットきび団子は、途中で斜めに傾いたまま、止まってしまった。
それを見越していたように、エクレア姫の方も、その恋人の傍らへと擦り寄る。

「ご紹介に預かりました、うち、エクレアと申します。
マスきびさんとは、懇意にさせて貰とりまして」

マスカットきび団子を支えるかのように寄っているエクレア姫は、しゃらしゃらした声で挨拶した。
のんびりしているマスカットきび団子と何処か被るような、おっとりした、洋菓子のくせに京の舞妓訛りをしているらしい。

しかし、このエクレア姫は、マスカットきび団子が言ったように、姫であると同時、洋菓子国の中で非常に人気の高いアイドルとして知られていた。
美しい容姿、愛らしい声、極上の味、何処を取っても非の付け所が無い。
洋菓子の中では、このエクレア姫を愛していない者など居ないとさえ言われている。

その高値の華を我が恋人としているマスカットきび団子は、驕るでもなく、謙遜するでもなく、常通りにのんびりしていた。
その俗世に無頓着な彼氏の何処に魅力を感じたのかは分からないが、エクレア姫は、マスカットきび団子の傍に居られるだけで満更でもないようだった。

「あずきさん」

しゃららんと金属楽器が鳴る音のような声を響かせて、エクレア姫はあずきに話し掛けて来た。
どうやら、和菓子国も、洋菓子国も、王族の血を継いだ者は、非常に礼儀に固いようである。
また畏まった挨拶でもされるのかと、あずきはぴんと背を張って「はい」と応えた。

「あずきさん、うちの兄がご迷惑をお掛けしませんでした?
以前から、あずきさんの話をちらほらしていたので、いつか馬鹿な事をしでかさないかと心配だったんですけど」
「あ、い、いえ」
「ちょっと痛い兄ですけど、純粋で真っ直ぐなだけなんです。
もし何かしでかしたら、御免なさいね」

よく乗ったクリームをゆらゆら動かし、エクレア姫はあずきに詫びを入れた。
しかし、謝られるとは思っていなかったあずきは、中途半端に首を振っただけで、気の利いた事は返せなかった。

確かに、このエクレア姫の兄であるシュークリームには、甚く酷い目に合わせられた。
すでに「何か」をしでかされていた。
きび団子の助けがなければ、今頃泣き喚いて、将来まで残るトラウマの一つや二つを残していたかもしれない。
それも、普通では考えられないような下品なものなどを。

だが、その全ての非礼を責める事が出来ない程、エクレア姫は確りした娘だった。
これで同じ兄妹だとは、信じられないくらいである。

「えっとー、そういう訳でー、父さん。
ボクがエクレア姫と一緒にー、洋菓子国との仲も復縁しますー。
洋菓子国と手を組めばー、他国とも十分上手くやって行けるでしょうしー」

エクレア姫が一通り陳謝したら、また王に向き直ったマスカットきび団子は、のんびりゆったり言った。
マスカットきび団子の通り、この洋菓子国の姫、兼アイドルのエクレア姫が居れば、洋菓子国との関係もぐっと良好になるだろう。
それどころか、同盟など結んで、これから先の発展にも大いに役に立つ。

マスカットきび団子は、ライバル国の姫と交際する際は、そんな事など計算していなかったが、結果、十分な縁を得た。
この三男は、こういう「棚から牡丹餅」を頂く性分をしている男なのだ。

「し、しかし」

長男の代わりに、次男が立つ。
次男の席を補うだけの働きを、三男が熟す。

これだけ納得せざるを得ない条件を突き付けられれば、王には反対する理由もなくなった。
本来であれば、「でかした」と大喜びするような偉業である。

だが、父としての意地か、王としてのプライドか、素直に頷くだけの小器用さが無い。
言葉を濁らせていると、今まで黙っていた王妃のいちご大福が、優しく口を開いた。

「あなた」

落ち着いた王妃の声は、いがいがしている王の心をそっと撫でた。
その王妃の柔らかい眼差しは、長男のきび団子があずきを見詰める時によく似ている。

「もういいじゃありませんか。
きび王子も、チョコきびも、マスきびも、本当に良く出来た子達ばかりです」
「いちご大福」
「私は、いい男ばかりの息子が居て嬉しいです。
あなたはどうですか?」

無理矢理逆立てていた王の内心を包むかのごとく、いちご大福は微笑んだ。
それに、王は口をへの字に曲げて唸りを上げる。

「うむむむむ」

王は、息子であるきび団子を見た。
きび団子のくるくるした目の中には、固い決意が秘められている。
恋に狂った、ただの虚け者の顔ではなかった。

そのフィアンセであるあずきも、数日前より、何処か大人びたようだった。
未だ顔形は幼い上、体付きとて変わっていないが、その表情に小さな変化がある。

王は、次男と三男を見た。
次男のチョコレートきび団子は、国のトップに立っても恥ずかしくない、立派な男に成長していた。
三男のマスカットきび団子も、頼り無い所は変わらねど、着々と人脈を築ける子になっていた。

王は、最後に妻を見た。
妻であるお后、いちご大福は、王に始めて出会った頃と変わらぬ優しさと、美しさと、何よりも深い愛を湛えた、一等級の大福だった。

「分かった」

王は一度瞑目して言った。
そして、ぶりが付いたのか、同じ言葉をまた吐いた。

「分かった、分かった、分かった。
もう、認めよう。
あずきさんとやらを、我が国の、きび王子の王妃として迎え入れよう」
「あなた」
「父上、本当ですか?」

王の許可と同時、王妃、次男、三男は、一度に嬉々として王の呼称を呼んだ。
それどころか、城内全てが、わっと欣快の声を上げた。

あずきも、手で口を覆い、小さな声で「やった」と呟いた。
こっそり聞いていたらしい城の給仕達も、傭兵達も、一斉に喜んでいるようである。

「父上」

その皆の欣幸の騒ぎを遮って、長男のきび団子は口を開いた。
しかし、周りは喜びに満ち溢れていて、未だわあわあと騒いでいる。
その息子の声に気が付いた王だけが、「何だ」と言わんばかりに聞き耳を立てた。

「お気持ちはとても嬉しいのですが、僕はやはり此処を出て行きます」
「ええ?」

そのきび団子の言った事に、王が驚き、王の声に王妃が気付き、次男、三男が目を見張り、周り全てにも驚愕の狂騒が伝染した。
折角纏りかけていた話を、きび団子は再び巻き返したのである。
寧ろ、悪化させているようでもある。

王である饅頭は、あずきを次期王妃として迎え入れる許可を出した。
つまりは、二人の結婚を認めたのだ。
次男であるチョコレートきび団子と三男のマスカットきび団子は立派に成長し、長男が居なくともきちんと一人で仕事が出来ると証明し、長男の愛を応援した。
王は、息子二人が、それくらいの覚悟を持っているのだと知った。
だから、それに応える為、王は最初のきび団子の要望通り、あずきを城に迎え入れる決断を下したのだ。

それなのに、きび団子はやはり出て行くという。
最早反対される事もないのに、和菓子国を捨てるという。
一体今度は何が目的なのだと、王はこんがらがった頭を必死に動かした。
しかし、一人で考えても答えなど出ない。

「きび王子、お前は何がしたいんだ。
わしは折角」
「父上のご好意を無駄にするようで申し訳ないですが、あずきの幸せの為には、あずきをこの和菓子国に留めて置く事は最善とは言えないのです。
あずきは未だ、十四歳です。
この子には、人間界で学ばなければならない事は沢山あるでしょうし、家族と引き離すにも可哀想です」

父の問いに、きび団子はすっぱりと理由を告げた。
そして、あずきへと目線を移す。

「ですが、僕もあずきと離れて暮らすだけの心の余裕もありません。
あずきが完全に大人になるまで待っているだけの器量も無い」

慈愛と愛欲が綯い交ぜになった目で、きび団子はあずきに笑い掛けた。
深く誰かを愛する大人の男とも、恋に溺れた情けない男とも取れる笑顔だ。

しかし、あずきはその表情に、きゅんと胸が締め付けられた。
こんなにも強く己の事を想い、大事にして貰った事など、今まで一度も経験した事がない。

「だから、僕は人間界に行きます。
申し訳ありません」

王に視線を戻したきび団子は、ぺこりと王にお辞儀をした。
そして、そのまま頭を上げなかった

しんと静まり返ったホールの中で、誰しもが息を呑んだ。
あずきとて、胸を両手で抑えながら、詰まる呼吸を小さく繰り返すしか出来なかった。

「頑張れよ、兄さん」

その真摯なきび団子に、次男のチョコレートきび団子が言った。

「ボク達はー、応援してますよー」

相変わらずまったりした声色で、三男のマスカットきび団子も続いた。

「きび王子」

そして、最後に王が言葉を落とした。
その声に、きび団子は僅かに目線を上げる。

「頑張りなさい」

目が合った息子に、王は静かに告げた。
途端、もう何度目か分からぬ大歓声が、辺り一杯に溢れ返った。
今までで一番大きな乱痴気騒ぎだ。

門番のもみじ饅頭が、爪楊枝を高らかに放り投げている。
メイドの栗羊羹が、運んでいた八橋のシーツを振り回している。

チョコレートきび団子の後方からは、いつから居たのか、さくら餅姫が顔を出して、小さな声で「おめでとう」と言った。
マスカットきび団子に抱き付いて、エクレア姫は喜びの歌を歌いだした。

「有り難う、父上。
有り難う、母上」

息子が言えば、王の饅頭は笑って頷く。
母のいちご大福も、優しく微笑む。

「有り難う、チョコきび、マスきび」

兄の礼に、次男のチョコレートきび団子は口角だけで笑ってみせた。
三男のマスカットきび団子は、こてんと転がって目を閉じる。
眠くなったようだ。

「良かったですね、きび王子」
「ああ、かしわ餅も、色々相談に乗ってくれて有り難う。
世話になったよ」

きび団子の世話役として、また時には相談役として仕えていた執事のかしわ餅にも、きび団子は精一杯の礼を告げた。
何処から騒ぎを聞きだしたのか、汁粉沼の白玉達も集まって、組み体操をして祝っている。
金の玉と噂されていたのり巻き煎餅と、その恋人の白あられまでもが、ぴょんぴょん跳ねて喜びを表している。
城の中とその界隈は大騒ぎだ。

「でも、たまには帰って来て。
後、孫の顔も見せて下さいね」

母であるいちご大福が、息子であるきび団子と、義理の娘であるあずきに言った。
あずきはぼっと顔を赤くしたが、きび団子は当たり前だと首を縦に振る。

和菓子国の中心は、もう嘗て無いどんちゃん騒ぎぶりだった。
隣の山の、そのまた向こうまで響き渡る程、それはそれは大きな御祭り事にもなった。

「有り難う、あずき」

そして、その賑やかな声に掻き消されないように、きび団子の王子はあずきの肩まで攀じ登って言った。

「これから先は、どんな事があってもずっと一緒だよ」

その言葉に、あずきもはにかんで、一度だけ首肯した。
外には、七色のところてんの虹が掛かっていた。





TO BE CONTINUED.

2008.09.15


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