何かがしゅるしゅると解かれていく音がした。
実質的には、何も、何処からも、解放されてなどいないけれど。
けれど、確かに。
確かに。
何かが解放されていく音を、聞いたのだ。
NOT SO FOR AWAY
「ジョーカー、どうしたの」
自分にそのような気持ちがあるとは知らなかった。
本当に、今更ながら驚いている。
「ジョ、ジョーカー?」
だから、この想いが変に恐ろしくて、くすぐったくて。
俺は、たまらず目の前に居た人間を引き寄せて、腕の中に収めてしまった。
細い身体。
もっとこのままきつく抱きしめたら、簡単に壊れてしまいそうだ。
「愛してるヨ」
ふわふわと安定が無い。
いつかは消えてしまいそうだ、とも思った。
だから、今の内に全て言い聞かせておこうと、言葉を紡ぐ。
「ちょ、どしたの?」
「何が?」
腕の中の物体は、顔を赤らめて、若干ふてた様な顔をして。
けれど、枷が解かれた俺の心に、迷いは無い。
「何言ってんの、朝っぱらから」
「朝だろうが夜だろうが、関係ないヨ」
そう言えば、何かがしゅるしゅると解かれていく音がした。
実質的には、何も何処からも解放されてはいない。
けれど、確かに何かが解けていく音を聞いたのだ。
「暑っくるしいなあ」
「…ごめんネ」
大して申し訳ないだなんて思っていないけれど、形だけは謝っておく。
目を閉じた。
すると、相手の体温を直に感じた。
今、その対象が此処に居て、それに自分が触れていて。
そんな些細な事が嬉しくて、けれどこうやって確認しておかないと不安で、怖くて。
自分のとは違う温かさ。
それが、とても心地よくて。
「アスカ」
俯いてしまっていた顔を自分に向かせて、唇を指でなぞり。
そして、貪るように口付けた。
解いたのは、この子だ。
ならば俺は、繋ぎ止める為にまた。
絶対的な何かを結びたい、と切に思った。
END.
2005.01.11
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