これが、女としても、男としても、初めてのセックス。
宮前飛鳥という人間の、初めてのセックス。
それが、こんなにも愛らしいと思える人が相手だなんて。
なんて、なんて嬉しい事。
たとえ一目惚れの浅い恋だと言われても構わない。
一目見ただけで心は繋がってしまうだなんて事も、きっとあるに違いないから。
ねえ。
ねえ、クイーン。
私、あんたに惹かれているよ。
THE CARD GAME
006/童貞放棄
飛鳥は、皮でできている黒のロングジャケットを、縺れる手で床に落とした。
すると、自分自身が白のタンクトップを下に着ている事に、初めて気が付いた。
更にその下には、小さいながらもついていた胸が、今は板のようになっている事も改めて確認できた。
本当に男だなんて。
確信を嫌でも齎せる事実が嬉しいようで、恥ずかしいようで、飛鳥はくすぐったい心地になった。
異性の身体を持ってしまった不思議さと慣れない感覚に戸惑う心も、頭の片隅にあった。
それらと、今目の前にある魅力的な裸体に揺らぐ本能が、交互に何度も頭蓋を行き交っている。
どちらかに傾く風は無い。
ただ忙しなく色んな思いが溢れていた。
何より、自分の男としての裸体に興味がない訳ではなかった。
元々中肉中背とされていた女の身体が、今は少し細めな男性の肉体となっているのだ。
明らかに不快を思わせるような筋肉づいたものではないので、これならばこれで少し味わってみるのもいいような気がする。
男特有の性の悦びにも胸が高鳴った。
だが、その身体は緊張の為か、或いは興奮の為か、じっとりと汗を掻いていた。
衣服がぺたりと肌にへばりつき、タンクトップを何とか剥ぎ取った後も、パンツを脱ぐのに梃子摺った。
「マスター、とても綺麗です」
飛鳥が苦労して脱ぎ去ったパンツの中から、少女と同じく下着をつけていなかった己の熱り立ったものを外気に晒した瞬間、少女は見惚れるように目を細めた。
飛鳥は、自身に取り付けられている芯あるものに少し戸惑いながらも、気恥ずかしそうに笑い掛けた。
熱はとくとくと下半身を中心に回り、天を仰いだ棒は肉欲の下にその解放だけを待ち望んでいる。
一寸でも気を抜けば、其処から精の粕が零れ出そうだった。
「クイーン、いいんだね?」
「私達にそのような愚問を、マスター」
少女の決心とも取れる科白の後、飛鳥は相手の視線に合わせるように片膝をついた。
少女の大きな眼の中には、潤んだ艶が見て取れた。
ゆらゆらと揺れる青いレンズに、ぱさぱさと上下する長い睫毛。
その全てが、今の飛鳥にとっては只々愛しいものとして映っていた。
飛鳥は、右手を少女の顎に沿わせ、少し上を向かせてから、浅く触れるだけの口付けをした。
少女の柔らかくぽってりとした唇は、飛鳥に程よく吸い付いた。
心地良い余り、唇から徐々に全てを侵されていく感覚に、飛鳥は誘われるように自分の舌を突き出して、相手の下唇を舐めあげた。
すると、それに応えるように、少女もおずおずと口を小さく開けた。
機を逃すまいと、飛鳥は歯列を割り、舌を奥深くへと差し込んだ。
その中は、触れた身体の体温よりも僅かに高く、まるで自身がもう体内に侵入したかのように錯覚させた。
別の生物のように動きを見せる互いの舌は執拗に絡み合い、どちらのかも分からない唾液も二人の顎を伝っていく。
小鳥の鳴き声のようだった可愛らしい音の口付けは、少しずつ水音を含む深いものへと変わっていった。
その時、飛鳥の脳裏には、切れ長の目をした『ジョーカー』と呼ばれていた男が、ふと過った。
何故かは分からないが、閉じた目蓋の裏にちらちらと銀の髪がちらついている。
そういえば、あいつともキスしたんだっけ。
そうぼんやりと数刻前の事を思い起こしながら。
しかし、ジョーカーとしたものとは比べものにならない程の今の情ある口付けに、飛鳥はすぐに酔っていった。
すると、ジョーカーという男の顔も、さっと脳内から消え去って行った。
先程の男とのキスと、少女と交し合っているキスとでは、思い入れの深さが違う。
飛鳥は自分に言い聞かせ、少女に悟られないよう一人頷き、交わっていた唇をそっと離した。
余りに濃厚に口付けていたので、二人の口元からは唾液の線が繋がったまま伸びていった。
それがまるで互いを繋ぐ愛の糸のように思えた飛鳥は、嬉しくなって少女の首元に吸い付いた。
「ま、マスター」
「『飛鳥』って呼んで、クイーン。
ね、『飛鳥』って」
「駄目、です。
マスター」
飛鳥は、少女の首筋に、一つ、二つと赤い鬱血の痕を残していった。
それに反応して、少女も飛鳥の背にゆっくりと手を回し、布団へと倒れかかっていった。
飛鳥もすぐに覆い被さるように、少女の身体を追い駆ける。
布団の上に重ねられた二人の身体は、互いに負ける事の無い熱を孕んでいた。
ちゅうっと音をたて、一際強く吸い、胸元に大きな所有の証を残す。
それに満足しながら、飛鳥は少女の小さな乳房に手を滑らせた。
撫でるように身体の線を愛でれば、少女もふるふると小刻みに震えながら応えてくれる。
それが、また堪らなく愛しかった。
「好きだよ、クイーン。
初めて見た瞬間から、あんたが好きになったみたい。
あんたも…クイーンも、私の事好きになってくれるよね。
ね?」
飛鳥は、切なる想いを込めながら、自分の下に敷かれている少女の耳元で囁いた。
その請いに少女もすぐに頷いてくれると信じていたが、当の相手は苦しげに眉を寄せているだけだった。
TO BE
CONTINUED.
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