此処は、『タロン』といいます。

マスターの世界でいうところの…そうですね。
『出合茶屋』、いわゆる『ラブホテル』でしょうか。

ええ。
けれど、私達はこのタロン以外での性行為は禁じられております。
ですから、私達にとってタロンという所は、神聖な場所でもあるのです。

そうですね。
そこが、マスターの世界とは違う所ですね。

THE CARD GAME
005/AS A LOVE HOTEL

桃髪の少女、クイーンからの丁寧な説明を、下肢の昂ぶりを気にする余り随分と曖昧に聞きながら、飛鳥はぎしぎしと軋む古い木でできた階段を上がっていた。
そのすぐ後からは、飛鳥に続いて少女の体重分だけ軋む音が合わさっていく。

それに掻き消される程度だが、壁の向こうからは時々淫猥な女の喘ぎ声が聞こえてきた。
その声が余りに艶かしく厭らしいので、飛鳥は覗きでもしているような気分になった。

随分と狭い白の土壁の階段。
廊下の通路。

其処を抜けて辿り着いたのは、金粉を振った古ぼけた一枚の障子だった。
飛鳥は、それが余りに想像していた通りだったので、つい目を曝してしまった。

そんな飛鳥を気遣ってか、少女は自らが前に行き、両膝ついて障子を開けた。
戸に添えられた指は細くしなやかで、爪先など女特有の淡い桃に色付き、優しくも淫らな雰囲気を纏っている。
それに加え、近くに居るだけで分かってしまう、飛鳥の脳を揺さぶる華とも見紛う少女の芳香。

飛鳥はごくりと唾を飲んだ。

「此処です、マスター」

開けられた戸の向こうからは、古くて質素な六畳程の和室部屋が現れた。
その中央には、菊をあしらっているのだろうか、少し豪勢な赤い大きな和式布団が一組。
しかし、枕だけは二つ添えるように設置されており、前の客のものだろうか、つんと鼻に衝く香も残っていた。
それら全てが明らかに濫りがましい行為を感じさせるので、飛鳥は目を白黒させてしまった。

隣に控えている少女と、その部屋の真ん中にある布団を交互に眺めてみる。
しかし、少女は平然とし、余裕の笑みだろうか、唇は僅かに弧まで描いている。

少女は、落ち着いたゆっくりとした動作で部屋の中に入った。
そして、膨よかで美味しそうな唇を動かして飛鳥に言った。

「マスター。
不束者ですが、ご奉仕できるよう努めさせて頂きます」

三つ指でもついて言うような、謙虚な台詞だった。
寧ろ、従順な女子の、忠誠を誓う言葉だった。

それに飛鳥は、的を射られたのかと思う程の衝撃を受けた。
胸をぎゅうと鷲掴みにされる錯覚を覚えた。

けれど、そんな飛鳥を気にせずに、少女はすぐさま纏っていた布を解いていく。
緊張の余り、身動きが取れない飛鳥とは比べ物にならない所作だった。

飛鳥は、眼前で繰り広げられるショーを少しでも瞼内に焼き付けようと凝視した。
くらくらする身体を抑え、今起きている現状を少しでも把握しようと、そして新たなる美味しい状況を自分のものにしようと、必死に頭を回転させた。

その飛鳥の熱い視線を一身に受け、少女は不自然にも淫らな気配を漂わせながら、自らの衣を衣擦れの音と共に剥いでいく。

一枚、二枚とパステルの布地が肌から離れ、しかし最初から取り付けていなかっただろう下着の脱衣時間は省かれ、桃の髪が、少女の肩に直接ふわりと落ちた。



真っ白な肌。
括れた鎖骨。
未だ幼いせいか小振りの両の胸。
刻まれたハートのタトゥー。

胸の先端には、薄い色をした桜の花弁のような突起がある。
其処から少し下に視線をずらせば、薄い下生えから陰部がそっと見え隠れしている。

長いようでいて、すぐに終わってしまったストリップ劇。
しかし、そんな魅惑的なショーの直後でも引けをとらない程の裸体が其処にある。

「あ、と。
その」
「マスターもお脱ぎになられて下さい。
私一人では、やはり恥ずかしいです」

へどもどと口籠もる飛鳥を余所に、柔らかに浮かばせた少女のはにかんだ笑み。
其処には、幼いながらも。
否、幼いからこその少女の艶がある。

静かで拙い和室の中、映えて輝く少女の四肢。

飛鳥はへなへなとその場に座り込み、そっと己の下肢に右手をやった。
其処には、変わらずどくどくと脈打つ熱い芯が存在を主張していた。

ヤりたい。
この子を、めちゃくちゃにしてしまいたい。

飛鳥は、自分の衣服の釦に手を掛けた。
一刻でも早く少女と繋がりたい欲求が、飛鳥を酷く急かした。

しかし、急げば急ぐほど身体は不自然に動き、手も縺れて絡んでしまう。

「ちっ」

思ったようにうまく回らない己の指。
焦るばかりの心。

飛鳥は、眉間に皺を濃く刻んで舌打ちをした。
それに、少女は些か困った顔をする。

「マスター、私は何処にも行きません。
どうぞ、ゆっくりと」

少女は再び微笑み、ゆるりと畳の上に座った。

それは至極女らしい座り方で、膝で隠れてしまった秘部の魅力を一層引き立てるものだった。
見えないその箇所からは、甘くて酸っぱい匂いも漂ってくる。
それは、鼻腔をぐずぐずと擽り、脳髄をびりびりと痺れさせた。

そして何よりも、丸くて柔らかそうな、その女の身体。
胸から腰にかけての、なだらかな曲線。

そのようなものは己のもので見慣れてしまっている筈なのに、それでも飛鳥は興奮した。
手に汗すら握った。

見知っている女の身体が、丸で異物のように感じる。
飛鳥の本能が、自分にはない異性のものだと呼び掛けた。





TO BE CONTINUED.


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